
骨格筋、肝臓および脂肪組織
メタボリック症候群、糖尿病などインスリン抵抗性を有する患者さんには腹腔内をはじめ異所性脂肪沈着が亢進している例が多く、骨格筋組織内にも多くの脂肪細胞が認められます。異所性脂肪沈着の特徴として脂肪細胞の肥大化が認められ、アディポカインと呼ばれる脂肪細胞由来内分泌因子に異常をきたすことが判明しています。
本研究ではインスリン抵抗性モデル動物を用いて、上述の生体内環境がヒト幹細胞に与える影響を解析しています。ヒト幹細胞にはクローニングが容易であるiPS細胞の特徴を生かして、同一クローン・同時培養のヒトiPS細胞をラット健常個体、糖尿病個体、あるいはインスリン抵抗性因子負荷個体に移植することにより、糖尿病環境が与える生体内幹細胞機能(増殖能・分化能)への影響を正確に定量評価することを目的としています。
(1)ラット糖尿病モデルの作出
2型糖尿病モデル動物として、食餌性負荷(高脂肪高フルクトース食)により、インスリン抵抗性を誘導したラットを用います。他に、糖尿病患者血液中で濃度上昇が認められる炎症性サイトカイン等の持続皮下投与(皮下埋め込みポンプ使用)によるインスリン抵抗性因子負荷モデルを用います。糖尿病あるいはインスリン抵抗性発症について、血液検査(空腹時血糖値、インスリン値、HbA1c、グリコアルブミン)、糖負荷試験(ivGTT法)により確認します。
(2)移植用iPS細胞・分化機能細胞の準備
ヒトiPS細胞は、京都大学iPS細胞研究所との共同研究により、骨格筋分化に関わる転写因子MyoDを発現するiPS細胞クローン(201B7 iPS-MyoD細胞)を使用しています。同一培養皿上のiPS細胞を移植カプセル内の多孔性メンブレン上へ播種(1x106個細胞)・接着させ、生体内細胞移植用の免疫隔離カプセルを作製します。
(3)生体内幹細胞移植による糖尿病性幹細胞障害の同定
前述の免疫隔離カプセルをラット背側皮下に移植し、一定期間後にカプセルごと細胞を回収します。回収細胞は、細胞増殖能・生存活性についてレゾルフィン蛍光アッセイにより、分化能はDNAアレイまたはRNA-Seqによる遺伝子発現解析、ブロット法による分化マーカータンパク発現解析により評価を進めています。
(4)霊長類モデル生体内幹細胞移植による糖尿病性幹細胞障害の同定
実験(3)に用いたラットに代えて、実験動物の中で最もヒトに近いとされるカニクイザルを用いた研究を滋賀医科大学との共同研究により進めています。これまでに高カロリー食負荷によるカニクイザル2型糖尿病モデルの作出に成功しており、上記同様に生体内幹細胞移植実験を進めています(図)。