研究紹介

代謝研究グループ

インスリン抵抗性とは

  インスリンと言えば糖尿病を想起される方が多いと思いますので、糖尿病の面からインスリン抵抗性を説明したいと思います。糖尿病の病態を一言で表すと、すなわち「インスリンの作用不足」ということになります。数多くのインスリン作用の中で、この場合は血液中の糖を細胞内に移動させる、すなわち血糖降下作用を意味しています。インスリン作用不足を来す原因は大きく2つに分けて、(1) インスリン分泌の低下(量の減少)と (2) インスリン作用障害(効力の減少)として考えることができます。1型糖尿病(T1DM)の場合は、膵β細胞の喪失により上述(1)インスリン分泌の低下(量の減少)が発症の原因となります。

  一方、糖尿病の大多数を占める2型糖尿病(T2DM)の場合は、過食による肥満や運動不足、更に遺伝的素因やストレス等の複数の要因が絡み合って、上述(2)インスリン作用障害(効力の減少)が発症機序の中心となります。特に腹腔内脂肪(内臓脂肪)の多い場合は、インスリン分泌が十分であっても(高インスリン血症でも)、必要なインスリン作用を発揮できない状況(病態)が生じます。この病態をインスリン抵抗性と称し、内臓脂肪の多いメタボリック症候群をインスリン抵抗性症候群と言うこともできます。

 

  従って「インスリン抵抗性」を解除することができれば、糖尿病もメタボリック症候群も治療することができるわけですが、そのためにはまずインスリン作用の詳細を理解しなくてはなりません。図にインスリン受容体シグナル伝達の一部を示していますが、複雑に枝分かれした数多くのインスリンシグナルが多様なインスリン作用を担っていることが判明しています。すなわち、血糖値を下げる「糖代謝作用」以外にも脂質代謝やアミノ酸代謝においてもインスリンは重要な役割を果たしています。また、増殖因子としての「細胞増殖作用」の他、心血管系への循環作用、消化吸収作用、中枢作用、細胞分化(幹細胞)作用についても多くの研究が進められています。