EBウイルスと自己免疫研究
EBウイルス再活性化に誘導される抗体産生系
Epstein-Barr virus (EBウイルス)はほとんどの人に潜伏感染しているウイルスで、ときに再活性化してたくさんの子孫ウイルスを産生します。EBウイルスは主としてB cellsに感染しますが、B cellsは抗体産生細胞である形質細胞に分化する細胞であるため、潜伏感染しているEBウイルスの再活性化によって抗体産生が刺激されます。我々はこのような「EBウイルス再活性化に誘導される抗体産生系」を提唱しています。
一般的な抗体産生ではB cellsはリンパ組織で自分の特異性にあった抗原とCD4 T cellsの刺激を受けることによって胚中心を形成し、形質細胞に分化すると骨髄に移動して長期間IgG産生を行います。しかし、EBV再活性化に誘導される抗体産生では、主としてIgMが、骨髄ではなく末梢組織や血中で産生されます。
また自己抗体産生B cellsは骨髄でのselectionを逃れて末梢に出てきても血中で抗原と出会うことが難しいため、リンパ組織に入ることができず抗体産生に至らないのですが、このような自己抗体産生B cellsもEBウイルスが感染し、再活性化することによって抗体産生が可能となります。このためEBウイルス再活性化に誘導される抗体産生では自己抗体が多く産生されます。
https://www.med.tottori-u.ac.jp/researchers/pickup/25124.html
バセドウ病の発症・増悪における役割
自己免疫性の甲状腺機能亢進症であるバセドウ病では、自己抗体であるTSHレセプター抗体(thyrotropin-receptor antibodies: TRAbs)が甲状腺濾胞上皮細胞上のTSHレセプターにTSHと競合して結合し、甲状腺ホルモンの産生を過剰に刺激します。我々はバセドウ病患者および健常者の血中にEBウイルスに感染したTRAb産生B cellsが存在すること、そしてこのようなB cellsを含む末梢血単核球にEBV再活性化刺激を行うと、TRAbが産生されることを確認しました。
EBウイルス再活性化によって産生される抗体はIgM型が多く、抗原への親和性はあまり強くありません。しかしTRAb-IgMは補体の活性化を介して甲状腺濾胞上皮を破壊し、甲状腺抗原を流出させ、TRAb-IgGの産生に働きます。
バセドウ病眼症およびその他の自己免疫疾患への関与
眼窩後組織は甲状腺濾胞上皮と同様にTSHレセプターを発現しています。EBV再活性化によって産生されるTRAb-IgMは眼窩後組織を傷害することによって、バセドウ病眼症における眼窩後組織の腫脹・線維化の原因となる可能性があります。
EBV再活性化に誘導される抗体産生と、それに引き続く組織破壊・組織抗原流出は、バセドウ病のみでなくあらゆる自己免疫疾患に共通の機序と考えられます。この機序をさらに解明し、新しい治療につなげていくことが我々の課題です。